●あらすじ
【処女】であることを彼氏に馬鹿にされた由香利。 失意の中彷徨っているうちに、 【異世界へ】とやってきてしまう。
彼女を助けてくれたのは、強面で大柄な男。 由香利はそんな彼に【自分の体を捧げる】決心をする。
「や、優しく、してください」
【家庭的で少し天然な乙女と  無骨だけど溺愛系な軍団長の  優しく蕩けさせる濃密ラブファンタジー登場!!】
●書籍化記念SS
 ヴァルドエルの背中を見送ってから由香利はいつも通り部屋の掃除を始めた。掃除といってもほとんどするところがないので三十分もかからない。それからベッドのシーツやシャツやズボンをまとめてかごに入れると洗濯場へ向かった。
 洗濯は意外に時間がかかる。けれど由香利は洗濯が好きだった。汚れたものが綺麗になるのはやはり気持ちがいい。しかも天気がいいのでよく乾く。取り入れるときのパリッと乾いた感触は心地いい。
 家に戻って洗濯を干し由香利は腰を伸ばした。青空の元風にはためくシーツを見ながら今晩のおかずは何にしようかと考える。
 昨日は肉系だったから、今日は魚にしよう。白身の魚をトマトで煮込んで、彩りよく野菜を添えてもいい。栄養価を考えればもう一品、と考えて由香利はくすりと笑う。
 主婦のようだと思ったのだ。
 一つ屋根の下に住んでいて、女が家を守り男は外へ出る。由香利はそれなりに家事ができるし、ヴァルドエルは時間通りにきっちりと帰ってくる。帰ってくれば濃密な夜を過ごし、由香利は夜ごと淫らに乱れる。
 まるで新婚のようだと思って由香利は一人赤くなった。
 首を緩く振って頭の中の考えを追い出しにかかるが、ふと思いついて由香利は呟いた。
「袋って…………なんだっけ?」
 結婚したら旦那様の三つの袋を掴んでおけと誰かが言っていたような気がする。三つの袋を掴んでおけば夫婦は円満だという。結婚式でよく言われる言葉だ。ヴァルドエルと由香利はもちろん夫婦ではないが、一つ屋根の下に住んでいる以上円満であることに越したことはない。
「給料袋と胃袋? だったかな」
 うろ覚えな記憶をたどって由香利は首をかしげてうなった。
 給料袋に関しては、存在しているかもわからないがヴァルドエルはこちらが催促しなくても十分すぎるほどの金を渡してきて自由にしていいと言ってくる。胃袋に関しては由香利の食事をうまいと言っていることからもつかんでいると思われた。
「あと一つ、なんだっけ?」
 由香利は首を傾げた。
「袋……袋……お袋? 違うよね~」
 考えながら家に戻る。椅子に腰かけて天井を睨むようにして考える。なんだかもやもやして、結果を出さないとずっともやもやしそうな気がする。
「堪忍袋?」
 確かに緒が切れると困るものではあるが、堪忍袋を掴めと言っている人を見たことも聞いたこともない。比喩だから何でもいいとは思うのだが、違うような気がした。
 胃袋が入っているから体に関することだろうかと由香利はさらに首をかしげる。体の一部だったり、比喩で袋と言われている場所を考えて由香利はハッとして気づいた。
「玉!」
 叫んだ瞬間に由香利はゆでだこのように一人真っ赤になった。

 給料袋、胃袋、そして玉袋。
 由香利は三つともしっかり握っているので、二人の生活はこれからも安寧といえそうだった。


優しく啼かせて 1
久遠縄斗 著:北沢きょう 画
3月27日発行予定 1,200円(税抜)

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