●あらすじ
 無事にヴァルドエルの家へと帰ってきた二人。
 早くも由香利を求めようとしたヴァルドエルを引き止め、
 由香利は「久しぶりだから、ゆっくり優しく」と初心な反応でヴァルドエルに頼み込む。
 その言葉に受け入れるヴァルドエルだったが、それは由香利が思っていたのと違う解釈で……!?
 こうして、濃密な二人の三日間の幕が開く。
●発売記念SS 好きも嫌いも
「由香利、俺の嫌いなところを言ってくれ」
「は?」

 ベッドでくつろいでいた由香利は、ヴァルドエルの突然の言葉に半身を起こした。

「嫌いなところって言われても、別にないかな 」
「嘘つけ。あるだろ、いろいろ」

 再度問われ、由香利は視線を巡らせ首を傾げてから、ハッとしたように顔を上げた。

「性欲が強すぎる!」

 ヴァルドエルはわずかに目を開いて、口元を手で覆った。

「そうか……そうなのか。で、あとは?」
「あと……」

 力が強くて逆らえない、わがまま、子供っぽいと由香利は言葉を続けた。

「なんで嫌いなところを言われて喜んでるの?」

 嫌いなところを言うたびにヴァルドエルの頬が緩んでいく。その様子に由香利は眉をしかめた。嫌いと言われて喜ぶなど、頭がおかしいかドMだ。ヴァルドエルがドMなわけがないので、とうとう頭がどうかしたのかと不安になる。

「今日、傭兵仲間が話しているのを聞いたんだ。好きと嫌いは紙一重だってな」
「なにそれ」
「自分のできないことを相手がしているのを見て嫌いになる。本当は自分もそうしたいという欲求で、見方を変えれば好きってことらしい」
「へ~」

 全てに当てはまるわけではないが、そういうところもあるかもしれないと由香利はうなずく。その様子を見たヴァルドエルは彼女に顔を寄せた。

「何?」
「つまり由香利は、俺の力が強くて逆らえない、わがままで子供っぽいところが好きなわけだ」
「なっ!?」 「それに性欲が強いのも大好きってことだな」
「大好きなんて言ってないし!」
「一番最初に出てきた嫌いなところなら、一番好きってことだろ」

 憶測をもとに勝手な答えを引き出されて、由香利は目を剥いた。

「じゃあ、ヴァルは? 私の嫌いなところってどこよっ」
「ない」

 由香利に勢い込んで聞かれて、ヴァルドエルは間髪入れずに答えた。

「嫌いなところなんて一つもねえ」
「じゃあ、好きなところもないんだ」
「違う。好きすぎて嫌なところがねえんだ」
「…………」
「まあ、傭兵たちのことだから、嘘かもしれねえがな」
「だよね~」

 安心したようににこやかに笑う由香利に、ヴァルドエルはさらに顔を近づけた。

「何?」
「で、由香利は俺の性欲の強いところ、好きなんだろ」
「は?」
「好きだって言えよ。言わないと襲うぞ」
「好きです!」
「じゃあ、襲ってもいいよな」
「ちょ、話が違う!」

 叫ぶ由香利をよそに、ヴァルドエルはそう言って満面の笑みを浮かべた。


優しく啼かせて 2
久遠縄斗 著:北沢きょう 画
12月25日発行 1,200円(税抜)

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